料理の記憶 〜衝撃の味〜
根源
記憶の深
どんな料理よりも体が覚えている出来事
当時私は10歳かそこらで、中学生だった長男が私の見ている中フライパンを振るう姿。
好奇心に溢れる私はワクワクしていた。
「なにしてるの?」
「玉子焼きだよ。」
はじめて見る長男の料理。それまで兄弟の誰かが料理をする事は無く、玉子焼きを自分で作れる事をはじめて知った。
「いいか、フライパンを煙が出るまで温めるんだ。」
私よりも知識豊富な長男は自慢げに火をともす。
見る見る煙が立ち昇るフライパンに卵を入れた時、私を未知の世界へ誘った
一瞬で火が通った卵を見て
「よし、ごはんも入れちゃおう!」
「おおぉ。すげー」
悠々とフライパンを回しながらあれもこれもと入れ始める長男。
「ちゃーはんか!?」
「たっくも食べるか?」
「うん。」
どんどん具材に火が入り、茶色く変わっていく。
私はどんな事よりも好奇心が先。
チャーハンとはきっとあの味だという今まで食べた経験から得た感覚。
美味しいものは自分で作れるんだという発見。
色んな事が私を興奮させた。
「よし。できた!」
「たっく。全部たべていいよ。」
「え~!ほんとに!!」
「おう。食べてみ。」
「やった~」
両親以外が作った初めての手作り料理
そこには純粋な気持ちしかない。疑う余地も無い。
大きな口をあけて一気に食べる
口の中で広がる苦味。
固まった塩が舌を刺激する。
もさもさのご飯と黒い卵。
一瞬の出来事で我を見失う。
未知の体験が体中の機能を奪う。
理解しきれない事に固まる体からでた一声
「まじぃぃい」
「あははははははははは。」
笑い声と共に長男の姿は消えていた。
その衝撃で
私は手が震えて二口目には届かなかった。
たった一口の記憶が今でも鮮明に覚えている
セピア色にならないのはなぜだろう。